ずっと以前から『平家物語』や「源義経」に関する本、映画などを目にするたびに、とても不思議に感じることがありました。
それは「池禅尼(いけのぜんに)による、頼朝の助命嘆願」です。そのおかげで平家は滅亡への道を辿ることになるのですが、助命の理由として、若くして死んだ自分の子供に顔が似ていたからなどともいわれています。
しかし冷静に考えてみると、少しおかしくないでしょうか?
その二人は本当に顔が似ていたのか。また万が一似ていたとしても、そのために禅尼が自分の命までも賭けて敵方の子供の助命嘆願を行い、それを清盛が了承する? とても納得できませんでした。
こんなに理不尽な話なのだから、いつか誰かがきちんと説明してくれるだろう、そう思って30年以上が過ぎてしまいました。
また、その間に生まれた疑問が「なぜ、源義経は怨霊として祀られていないのか」ということです。
ご存知のように義経は、天才的な戦術を用いて平家を滅亡に追いやったにもかかわらず、兄・頼朝の不興を買って命を落としてしまいます。後の世にも、義経の怨霊が出現したという伝説まであるのに、きちんと「怨霊」として祀られてはいません。奥州で命を落としていたなら、間違いなく「怨霊」として祀られているはずです。しかし怨霊扱いされていない。そのために、実は生き延びて成吉思汗になったなどという説も語られました。
「源平」に関しては、その他にもまだまだ不思議な事柄が多くあります。たとえば――。
希代の英雄・木曾義仲が何故、虚偽の罵詈雑言を浴びせられたのか。
義経による一の谷の坂落としは、本当に行われたのか。
平家が壇ノ浦で、安徳天皇と三種の神器までも巻き込むという悲惨な最期を迎えた理由は何なのか。
平家滅亡後の、頼朝・頼家・実朝たちに降りかかった惨劇と、それに続く血で血を洗う鎌倉の殺戮史の真相は。
などなど、実に広範囲にわたり複雑怪奇です。
ところが。
少し視点を変えるだけで、これらの謎が全部あっさりと解けてしまうのです。答えは実に単純なことで、しかもその解答は、たった一言に集約されます。
どうぞみなさまも、源平の時代に(頭の中だけ)タイムスリップして、主人公たちと共に、深遠で魅力的な謎を追っていただければ幸甚です。
高田崇史 (たかだ・たかふみ)
昭和33年東京都生まれ。明治薬科大学卒。
『QED百人一首の呪』(講談社ノベルス)で、第9回メフィスト賞を受賞しデビュー。著作に「QED」シリーズ、「カンナ」シリーズ、「鬼神伝」シリーズ(2011年アニメ映画化)、「神の時空」シリーズ、『軍神の血脈 楠木正成秘伝』などがある。
傑作歴史ミステリー、と帯にはっきり書いてしまいました。今回は超大作です!
小余綾(こゆるぎ)俊輔は大学の民俗学研究室に所属する助教授です。中世史は専門外ではあるのですが、日本の伝統芸能や国文学、古代史などの知識も総動員して、源平合戦の謎を解き、全く新しい景色を見せてくれます。
「歴史は考えるもの」と高田さんはいつもおっしゃっていますが、まさに考えてこそ見える景色! ぜひご一読を!!
イラスト:「QED」シリーズ、「カンナ」シリーズ、「鬼神伝」シリーズ装画より