『出雲国風土記』によれば、出雲国には「四大神」が鎮座しているといいます。その神々の具体的な話に関しては、本文を読んでいただくとして、その中の一柱に「佐太大神」という、不思議な神がいらっしゃいます。
この「佐太大神」を主祭神としてお祀りしているのが、松江市の佐太神社なのですが、この神社では十一月(旧暦十月)に、八百万の神々をお迎えする「神在祭(じんざいさい)」が執り行われます。
ご存知のように、日本国中の全ての神々が出雲へお集まりになることから、十月は「神無月(かんなづき)」と呼ばれ、その一方出雲では「神在月(かみありづき)」と呼ばれています。「神在月」の「在」を「有」と書けば、「十」と「月」で「十月」となることも有名です。
ゆえに、佐太神社で「神在祭」が執り行われることに関しては、全く不自然なことではありません。
ところが、この神社では、その後に「神在祭止神送(しわがみおくり)神事」という、「神在祭」が終了したにもかかわらずお帰りにならなかった神々を送るという祭が執り行われるのです。その上、五月には「神在祭裏月祭」「神在祭裏月祭止神送神事」も執り行われます。
つまり、出雲にいらっしゃった神々には、何があってもお帰りいただくという強いシステムが敷かれているわけです。
しかも、これらの祭の期間中は「幟も立てず、神楽も上げぬ」厳粛なもので、別名「お忌祭」と呼ばれているのです。
これは、一体どういうことなのでしょう。実は出雲国では、これらの神々には、できる限り「いてもらいたくない」のでしょうか……?
出雲に関しては、何度か書かせていただきましたが、まだまだ謎が深いようです。そこで今回は、今までとは少し違った観点から切り込んでみました。
そんな謎を、黄泉比良坂で起こった不可解な殺人事件に巻き込まれながら、日枝山王大学民俗学研究室の大学院生で、少しおっちょこちょいな橘樹雅(たちばな・みやび)が、研究室の冷ややかな先輩たちを巻き込んで追いかけます。
そして、次回のテーマは「奥出雲」です。
素戔嗚尊である「櫛御気野命」、彼の后神である「櫛名田比売」、また「櫛玉饒速日命」「玉櫛姫」などなど。なぜこれほどまでに「櫛」の文字がつく神が多いのか。「櫛」とは何か、という謎に雅たちが切り込んで行きますが、果たしてその結果は……。
というシリーズなのですが、今まで同様、ぜひよろしくお願いいたします。
高田崇史(たかだ・たかふみ)
昭和33年東京都生まれ。明治薬科大学卒。『QED百人一首の呪』(講談社ノベルス)で、第9回メフィスト賞を受賞しデビュー。著作に「QED」シリーズ、「カンナ」シリーズ、「鬼神伝」シリーズ(2011年アニメ映画化)、『軍神の血脈 楠木正成秘伝』などがある。
「縁結び空港」という名前をつけるほど縁結び推しの出雲。パワースポットとしても人気ですが、本当は怖い出雲の歴史の真相が! 「歴史は覚えるものではなくて考えるもの」という立場から、敗者の視点から見た歴史に光を当てる歴史ミステリーを書き続けてきた高田崇史氏の新シリーズ開幕です! 取材でご一緒した出雲では、二十社近くの神社をまわりましたが、どれも私には広大に思われ、圧倒されました。かの地の雰囲気を感じながら読んでいただければと思います。出雲神話の印象が変わります!
イラスト:「QED」シリーズ、「カンナ」シリーズ、「鬼神伝」シリーズ装画より