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狼と兎のゲーム 我孫子武丸

狼と兎のゲーム 我孫子武丸

暴力に囚われた“怪物”の魔の手が子供たちに―― このゲームの終着点は!? 『殺戮にいたる病』を凌ぐ衝撃作!

表紙

2年前に母が失踪して以来、小学5年生の心澄望(こすも)と弟の甲斐亜(がいあ)は父・茂雄の暴行を受け続けていた。夏休みのある日、庭で穴を掘る茂雄の傍らに甲斐亜の死体が。目撃した心澄望とクラスメートの智樹を、茂雄が追う!死に物狂いで逃げる彼らを襲う数々のアクシデント!!茂雄が警察官であるゆえ、警察も頼れない二人の運命は――。
そして待っていたのは、恐怖と驚愕の結末!!

『狼と兎のゲーム』
著者:我孫子武丸
定価:本体1,400円(税別)

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あとがき

昔からなぜか、逃げる物語が好きです。孤立無援の主人公が、圧倒的に強い敵をかいくぐり、ひたすら逃げる、あるいはどこかを目指して包囲網をかいくぐる―時代劇『斬り抜ける』やテレビシリーズの『逃亡者』『超人ハルク』なんかもそうですし、映画だと『ウォリアーズ』『グロリア』、小説だとスティーヴン・キングの『ファイアスターター』、北方謙三『逃がれの街』……などなど数えあげたらきりがありません。

比較的最近(といっても十五年以上前になってしまいますが)、「やっぱり俺はこういうのが好きだなあ」と再認識させてくれたのがキングの『ローズ・マダー』。暴力警官の夫が、逃げた妻をとことん追いかけていくのですが、逃げ出すことを妻が決意する場面のわずか数ページで妻の性格と共に夫の怖さが伝わってきて、完全に心を摑まれたものでした。

もう既に、「逃亡もの」は何作か書いているのですが、その中でも今回は『ローズ・マダー』っぽい感じを目指しました。その割には長さは全然追いついてなくて、元々いつも短めの傾向があるのに輪をかけて短くなってしまいました。

というのも実は、本作のプロットは、元々あの「ミステリーランド」用に考えていたものだったからなのです。「ミステリーランド」は、「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」と銘打たれた箱入りの書き下ろし叢書で、一応は児童書の体裁をとりつつ、基本的には各作家自身の判断に委ねられた、いたって緩やかな縛りしかないものでした。でもまあぼくとしてはやはり児童向けである以上、主人公はこどもにしよう、そしてできればこどものトラウマになるような物語を書こう、と思ってこういうプロットを立てたのですが……さすがにどうマイルドに書いても、根本的にひどい話であることには変わりなく、主人公と同年齢の読者に読ませるのはちょっとどうなのかという迷いもありました。

結局、幸か不幸か別の話をひねり出すことができたので「ミステリーランド」には『眠り姫とバンパイア』という作品を書くことにし、残ったこっちのプロットは、主人公こそこどものままだけれども、最初から大人の人に読んでもらう前提で書くことにしました。

そういうわけなので、「少年少女」を除いた「かつて子どもだったあなた」にお楽しみいただきたいと思います。

我孫子武丸

著者写真

1962年、兵庫県生まれ。京都大学文学部哲学科中退。同大学推理小説研究会に所属。新本格推理の担い手の一人として、89年に『8の殺人』でデビュー。『殺戮にいたる病』等の重厚な作品から、『人形はこたつで推理する』などの軽妙な作品まで、多彩な作風で知られる。大ヒットゲーム「かまいたちの夜」シリーズの脚本、映画『監禁探偵』の原作も手がけている。近著に『さよならのためだけに』『眠り姫とバンパイア』などがある。


担当者コメント

多彩な作風で知られ、人気ゲーム「かまいたちの夜」シリーズのシナリオも手がける我孫子武丸さんの新作は、久々のサスペンス・ミステリー。暴力衝動を抑えられない警察官である父に追い詰められる小学生二人。圧倒的な力の差があることを知りながら、子供たちも知恵を絞って、逃げようとしますが……。そして驚くべき真相!『殺戮にいたる病』を凌ぐ衝撃作の登場です!!