講談社BOOK倶楽部

海の見える街 畑野智美

海の見える街 畑野智美

表紙

海が見える市立図書館で働く20代、30代の4人の男女を、誰も書けない筆致で紡ぐ傑作連作中編集。

「マメリルハ」……7月、僕の変わらない日常に異変が起きた。「ハナビ」……11月、私のまわりで違う何かが起きている。「金魚すくい」……2月、俺は理解されずに、彼女を待つ。「肉食うさぎ」……5月、わたしの誕生日を祝う人がいる街で。

『海の見える街』
著者:畑野智美
定価:本体1,500円(税別)

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畑野智美特別エッセイ「線路の先」(初出 「本」2012年10月号)


書評続々!

あらゆる恋は奇跡だ。――この年の瀬に、「今年最高の恋愛小説」が登場した! 油断大敵。大胆不敵。畑野智美の小説を読んでいると、そんな四字熟語が浮かぶ。舞台設定に派手さはない。だが、何が起きるかわからないスリルが最終ページまで持続し、「世界はこういうふうにできている」という真実の感触が心を連打する。

吉田大助さん (「SPA!」2012年12月25日号)

オーソドックスな、その代わりいつの時代もふらつかない強い芯を、畑野智美の物語は持っている。

北上次郎さん(「本の雑誌」2013年1月号)

一作ごとに着実に物語世界を広げて行っている畑野さん。進化・深化を続ける彼女に追いつくなら、今がチャンス! 問答無用、読むべし、読むべし!

吉田伸子さん(「IN☆POCKET」2012年12月号)

書店員コメント 書店員さんから感想が続々届いています!

昨日も今日も何も変わらないと思っていた日常。退屈で、でも居心地が良くて、そんな毎日がある女の子の登場で少しずつ崩れていく。 その変化は怖くて、面倒だけど、今までしばらく忘れていた感情を教えてくれる。とまどいながらも、その変化を前向きに受け止めていく「僕」、そしてその波紋はまわりにも広がっていく。たった一つの出会いでこんなにも明日は変わる。未来が鮮やかに色を変える瞬間をこの小説が見せてくれた。

ジュンク堂書店池袋本店 田村友里絵さん

誰かと関わるのがこわくて、でも寂しくて、傍らに小動物の温もりを感じて生きている4人。ああこの気持ちすごくわかるなあと思いました。臆病でいじらしくて。そんな彼らが出会って、お互いの殻をおずおずとつつき、破ってゆく。畑野さんが描く人と人との化学反応は、繊細で鮮やかでドキドキします。海を見て潮風をかぐと、新しい何かが待っている気がする、そう思ってしまうのは私だけでしょうか。『海の見える街』の中にも、そういういいにおいのする予感、とか、希望が流れていて、胸が新しい空気でいっぱいに満たされるようでした。

紀伊國屋書店新宿本店 今井麻夕美さん

昨日と同じ今日。今日と同じ明日。家と職場の往復だけで何も変わらない日々のなかで、少しずつ起こる化学反応が、やがて目に見える世界を大きく変えていく。 ダサくてイライラする相手、常識の通じない新人、小児愛好者と、全く世界が変わらない4人が互いを意識し混ざりあい変化していく。 人と人とが意識せずに影響されあい、生まれ変わっていくのを気持ちよく感じながら読みました。 臆病な小鳥、ゆっくりな亀、死んでしまった金魚、部屋にこもっているウサギが、それぞれの何かを表しているようでその点も面白く読みました。 そしていつもそこにある海。偽物のように群青な日も、泥水のように濁っている日もあるけれど、ラストのページではきっとキラキラに輝いている海に違いない。

紀伊國屋書店横浜みなとみらい店 安田有希さん

舞台は、海の近くの街で湘南ではないかもしれない。けれど、海の近くで育ち図書館通いが大好きだった自分には、「これは!」とおもえるような素敵な物語でした。図書館員の日常?本に囲まれて、もっと地味で淡々としているのかと思いきや、4人の今も過去もそしてたぶん未来も、山あり谷ありの青春で、なんだかとてもほろ苦かったです。「金魚すくい」を読んだ時は、ああっそうなのかと少し唖然としました。一筋縄ではいかない日々も生きていくって、前に進むってこういうことなんだなあと感じました。

有隣堂厚木店 佐伯敦子さん

もぎたての果実のような何という純度の高さ!! 誰かを好きになるというシンプルな感情、その揺らめきとぶつかり合いが光の粒子が見えるほどあざやかに描かれている。さり気なく軽やかで、どことなく爽やかで、溢れるほどみずみずしく、弾けるほど新鮮だ――。無限の才能と新たな可能性を秘めた奇跡のような物語。日常の風景をドラマチックに化学変化させるようなパワーを、この作家は持っている!

三省堂書店営業本部 内田剛さん

春香ちゃんがきて動き出した平穏で決まりきった生活が、それぞれ辛いところがありながらも幸せそうな方向にまとまってよかったです。読みながら“マメルリハ”がどんなインコか気になって、思わず調べてしまいました。マメちゃんは幸せの青い鳥だったんですね。

有隣堂アトレ新浦安店 富沢さん

人と人とはこんなふうにして出会い、お互いを認め、自分の中にとりこんでいくんですね。 ところで、私がなによりうれしいのは“「天才ハタノ」の3作目”と紹介されていたことです。『国道沿いのファミレス』の最初を読んだだけで、なんとなくワクワクしていた私は、この人なんか他の人と違うのかなと思っていました。いとも簡単に「天才」と言ってくれたので、すっきりしてます。

文教堂浜松町店 大浪由華子さん

各章の主人公達は過去の出来事のせいで心に傷をもっている。その心の傷は癒えることはないかもしれないけど、誰かに出会うことで、その痛みは忘れることができるのだと思いました。あと、個人的には松田さんのその後がすごく気になりました。

MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店 勝間準さん

読者コメント 読者モニターも大興奮!

日常が崩れていく瞬間は目に見えないモノだけど、崩れた日常がカタチを変えて元に戻る瞬間は、握った手の温かさで分かるんじゃないかなあと思いました。海の見える街に越してきて、海の見える街に友だちがいて、海の見える街で恋をして、海の見える街で幸せになる。 男女4人の中編でしたが、どのお話にも出てくる戸惑いや悩みや葛藤が海の匂いがして、海風のように流れていくのが感じられました。

埼玉県 30代 女性

この子、きらいだな。いやな子だな。『マメルリハ』では、たしかにそう思ったはずなのに、『肉食うさぎ』を読み終えたとき、わたしはその子をだいすきになっていました。7月、11月、2月、5月。物語は、視点を変えてすすんでいきます。海の色でも、風の温度でもなく、4人の間にある矢印の向きと感情が、こまやかにうつろい重なることで、たしかに過ぎていったこの街の1年を感じました。

山形県 20代 女性

出てくる人はみんな、弱くて強くてたおやかだ。つまらないことで思い悩んだり嫉妬をしたり怒ってみたり、そういうすべてが愛おしく見える。穏やか人は、穏やかな人生を送ってるんだと思ってた。穏やかな恋愛をして穏やかな失恋をし、穏やかな家族に囲まれ穏やかに呼吸をしているんだと思ってた。人にそれぞれ人生があって経験やかなしいことやうれしいことがあって、そんな上でその穏やかさが成り立っているって、当たり前のことに気付かされた。

東京都 20代 女性

海が見える街のマジック。それは人を優しく強く変化させるような環境なのだろう。うらやましい街、うらやましい職場、もうすべてがうらやましくなり、胸が苦しくなった。

読んでいて、少し、いやかなり切なくてつらいけれど、痛い。みんないつか絶対に自分を大切にしてくれる大切なものに会えると強く思う一冊でした。

茨城県 30代 女性

みんなダメな人たちが、ちょっとしたことをきっかけに少し幸せになってダメなまま幸せなってくのがすごく良くって、それぞれの人物描写がよくできているので、自分のだめなところを重ねちゃったりしながらさらっと感情移入してしまうので、それぞれの主人公が少しでも幸せになっただけで、なんだかすごく幸福感を感じられて、とても幸せな読後感でした。感情移入の程度がぎりぎりで抑えられてて、多分心情描写が少し足りないんだと思うんですが、そのおかげで少しの客観視、すこしの友達感があって、なんだかその加減が絶妙でここちよかったです。幸せな読書でした。

愛知県 20代 男性

どの章ももうちょっと書いて!!っていうところで終わっていて読み進める程4人の関係が気になってくる。だんだん「好き」が変わってくるのも面白い。この時は彼が好き。でも、今はあの人が好き。日野さんの恋バナをもっと読みたかった!!松田君のその後がとっても気になります。良い意味で消化不良な本でした。

静岡県 20代 女性

こんな物語大好きです。ずっと読んでいたかったし物語が終わってほしくなかったです。そしてなんといってもずるい。嬉しいも楽しいも悲しいも 恋も全部の感情がつまっていました。良い事全部詰め込んでいるけど、反対に嫌なことも全部詰め込んだっていう感じでした。だから読んでいてどうしようもない気持ちになったけど、これが「人生」なんだろうなって感じました。そう思ったら少し悲しくなって、でも物語の一編一編に感動しました。「海の見える街」っていうタイトルが物語をオブラートのように薄く包み込んでいるようで格好良い なって思いました。

大分県 10代 男性

図書館司書さんなんて、読書好きならかなり憧れの職業なんだけれど、彼らの内側にあるちょっと得も言われぬ深い業のようなものだったり、複雑 に屈折した他者への思いだったりがさらりとした『海の見える街』の風情との対比で描かれていてヒヤッとする部分が癖になりそうな作品でした。彼らがそれぞれに持っている感情はどれも共感は出来ないのだけれど、ところどころに描かれるピリッとした部分のようなものが心に引っかかるのだろうな…と思います。とくに日野さんや春香ちゃんのかわいらしさや微妙な鬱屈した部分なんかはすごく生々しくて読んでいてドキドキひやひやするほどでした。

大阪府 30代 男性

最初から最後まで一気に久しぶりに読んだ小説。最初はこの二人がくっついてこっちの二人がくっついてと、想像していたけども話を読めば読むほ どどんどん展開が変わっていく。そして、一気にラストまで駆け抜けていく感じがとても心地いい。どこかの書籍のうたい文句じゃないけども何か恋愛に関して大切なものを忘れてしまった。そう思う人にはぜひ読んでもらいたい作品だった。

東京都 20代 男性

とても面白かったです。各主人公がそれぞれのもどかしい想いを抱えながらそれぞれの季節を過ごしていく。けれども日常のあることがきっかけで、それぞれがそれぞれの想いに立ち入ることになり、それぞれの生活に影響を与えていく。関係のないようで関係していて、意識していないようで意識していて。それぞれの年代で男女それぞれの想いを書き表しているだけあって、それぞれの気持ちがわかり、最後がどのような結末を迎えるのかとても気になりながら一気に読み進めていました。

広島県 30代 女性

この物語たちに出てくる人物はみんなどこか欠けていて、その筆頭は本田さんだけど、だからこそ無性に私も本田さんに会いたくなりました。 最初は毒にも薬にもならない人畜無害だったくせに少しずつ変わっていって、そのくせ最後まで優しいところは変わらなかった。どこまでいっても卑屈になったりしない、なんて素敵な人なんだろうと思います。私も春香ちゃんに『大丈夫だよ』といってほしい。日野さんと好きな本の話で盛り上がりたい。この本に出てくる人達は、本当に皆素敵だと思います。眩しい世界観も大好きでした。

神奈川県 20代 女性

すっごい事件はないけれど、日々少しずつ色が移っていく日常。こんなゆったりとした作品は、ドタドタバタバタしている私に、ほんのひとときゆとりをくれた。

大分県 30代 女性

最初は失敗かなと思った。第一章でのパンやの話や日野さんの髪型の話が意味のないものと思っていました。でも、全然そんなことはなかった。展開は遅かったけれど章が進むにつれて前の章で起こったこととの関連がわかり、これが連作という意味なのかなと思いました。最後の章の「肉食うさぎ」は入れてくれてよかった。松田さんのその後もとても気になり、いつか別の場所で書いてほしいとは思いますが、春香ちゃんと本田さんの恋がきれいに終わってくれて報われてよかったと思います。天才ハタノと言われる所以がよくわかりました。最初で読むのやめなくてよかったです。

千葉県 10代 男性

思わずほほえましく感じるような恋愛物語と、DVや虐待、小児性愛などが同じ時、同じ場所で語られるところが非常に興味深い。現実の世界も、何事もなく過ぎているかのようで一歩踏み込むと闇に包まれている、案外そんなものかも知れない。全編を通じて、いつも海の香りがした。いくつもの悲しみや苦しみが描かれているにもかかわらず、全てを海の広さが包み、最後には気持ちの良い穏やかな海辺の風が吹き抜ける、そんな物語だった。 物語の最後に実を結ぶのはただ一つの恋。学生時代の青春と比べると少し重たいけれど、大人の青春も充分甘酸っぱく、人を好きになること、大切に思うことが尊く感じられた。

長野県 30代 女性

畑野智美(はたの・ともみ)
1979年東京都生まれ、東京女学館短期大学卒。
2010年『国道沿いのファミレス』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。
2012年、2作目『夏のバスプール』を刊行し、本書が3作目となる。