たぶん私は、とても天邪鬼な人間なのだと思います。警察小説でようやく取り上げてもらえるようになった時期に、いきなり青春小説を書いてみたり。女性主人公が多いと言われ始めたら、男性主人公の作品を書いてみたり。
今回の『Qrosの女』もそうですね。これまでに「不幸な真実の物語」はいくつか書いてきたから、まったく逆の「幸せな嘘の物語」を書いてみよう。「誉田の作品はグロい」と散々言われてきたから、じゃあグロ要素は封印してみよう。パートごとに視点人物が交代する手法もお馴染みになってきてるみたいだから、今回はちょっと違うスタイルにしてみよう、などなど。
舞台設定もそうです。警察、剣道、仮想現実、音楽、江戸吉原、通信社、ギネス写真、裏稼業、農業、超能力師事務所といろいろ書いてきましたが、また似たようなものを書いて「誉田もそろそろネタ切れか」と思われたら癪なので、まったく別のジャンルを選んでみました。
今回はズバリ「芸能界」と「週刊誌」です。どうですか。いかがわしさ満載でしょう。でも、なんとなく面白そうでしょう? 私もそう思ったから書き始めたのですが、これがまた、予想外に楽しく書けたのです。嘘みたいな幸せです。いや、本当に。
というわけで、ぜひ誉田初の「幸せな嘘の物語」──『Qrosの女』をお楽しみくださいませ。