三島賞受賞の注目作家・佐藤友哉が、敬愛するサリンジャーの不朽の名作『ナイン・ストーリーズ』に挑んだ意欲作。「鏡家」の型破りな七兄弟を主人公に、一作ごとに原著の設定や内容を下地にしながら現代日本を舞台に描く9篇の物語。ノベルスと純文学の境界を超えて活躍する佐藤友哉ならではの、スピード感と哲学性が共存する魅力の連作短編集です。
『ナイン・ストーリーズ』
著者:佐藤友哉
定価:本体1,600円(税別)
みなさんは『ナイン・ストーリーズ』ということばを、これまでの人生でどれほど耳にしたでしょう?
元はJ・D・サリンジャーの短編集のタイトルなのですが、今やそれは多くの物語に借用・流用されています。
トジツキハジメさんがそのまま『ナインストーリーズ』というタイトルで漫画を、九人の小説家による『源氏物語』トリビュート本は『ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ』で、ドン・デリーロの短編集は『天使エスメラルダ 9つの物語』となっています。
ちなみに『九つの物語』というのは、『ナイン・ストーリーズ』のかつての邦題で、1963年の思潮社版、1969年の荒地出版社版、1969年の角川書店版が、すべて同タイトルでした。
さらには、ミュージシャン林哲司さんのアルバムタイトルも『ナイン・ストーリーズ』で、宮崎薫さん(CHAGE&ASKAのASKAの娘)が去年発表したアルバムは『9 STORIES』で……数え上げたらきりがないので省略。
僕が今回書いた『ナイン・ストーリーズ』もまた、その系譜に属するのでしょう。
サリンジャーの魂とストーリーの神さまに捧げた、至高の一冊となるのでしょう。
さて。
みなさんの頭には、一つの疑問が浮かんでいるはずです。
「なんでみんな、そのタイトルを使いたがるの? コピーの誹りを受けるかもしれないのに。せっかく自分で物語を作ったのに。そんなわざわざ」その問いには、こう答えるしかありません。
逆襲。
僕たちはあえて自作をコピーに貶め、どこまで原典と戦えるのかを、どこまで現実に居座れるのかを、確認したくてたまらないのです。
もちろん、コピーの最期は知っています。
かならず敗北することなど、とっくに承知です。
だとしても、コピーの側についてやりたいのです。
コピーの一瞬の輝きほど美しいものはないのだから。
マリリン・モンローのコピーとなるために生まれ、恋をする前に殺されてしまったジョンベネちゃんのように。