火星からの隕石に、生命の痕跡が発見された。取材をする科学誌ライターの小日向のもとに、当該論文の偽装を告発するメールが届く。翌日研究室を訪ねた小日向は、こと切れた教授を発見。実験室クリーンルームには、方舟の形をした黒い物体が残されていた。物体を鑑定した科学警察研究所の女性研究者・佐相は、それが火星隕石であったことを証明する。真相の究明は、天才惑星科学者・百地に託された。
『ルカの方舟』
著者:伊与原新
定価:本体1,400円(税別)
『ルカの方舟』という小説のキーワードは、「火星」「隕石」「地球外生命」、そして「論文捏造」です。ロマンに満ちた言葉の中にただ一つ紛れ込んだ寒々しい響きが、この物語をミステリーたらしめています。
科学者は、白衣を着たロボットではありません。むしろ、一つのことに執着し、偏愛を注いでしまうという深い業を背負った人々です。その情念
は、見事な研究成果として我々に新たな地平を見せてくれることもあれば、ときに悲劇を生むこともあるでしょう。
「科学」という営みを通じて、「人間」のドラマを描こうとつとめたつもりです。小説の中で語られる「科学」と、研究者という生身の「人間」が
見せるコントラストが、両者の美しさと哀しさを互いに際立たせていると感じていただければ、著者としてそれ以上の喜びはありません。予備知識
は何一つ要りませんので、ぜひ一度手にとっていただければと思います。
伊与原新
伊与原 新(いよはら・しん)
1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒。東京大学大学院理学研究科博士課程修了。『お台場アイランドベイビー』(角川書店)で横溝正史ミステリ大賞を受賞。受賞第一作に『プチ・プロフェスール』(角川書店)を発表。本作が三作目。