豆を手にすれば恋愛成就の噂がある、東大寺二月堂での節分の豆まき。奈良の女子大に通う「私」は、“20年間彼氏なし”生活からの脱却を願って、その豆まきに参加した。大混乱のなか、豆や鈴を手にするが、鈴を落としてしまう。拾ったのは、狐のお面を被った着流し姿の奇妙な青年。それが「狐さん」との生涯忘れえない、出逢いだった――。
はじめまして。北夏輝と申します。
『恋都の狐さん』の単行本化が決まり、今は関係各位への感謝の気持ちでいっぱいです。
第46回メフィスト賞をいただいたこの作品の舞台は古都奈良、季節は早春で、その時期の奈良のイベントについても触れています。
私はもともと神社仏閣・祭礼行事が好きで、学生生活を送るかたわら、いくつもの行事に足を運んでいました。本作を執筆しようと思い至ったのも、そのような経験と奈良への愛着からです。奈良はとても良いところです。観光名所がたくさんあるし、住んでいらっしゃる方々の気性は穏やかだし、奈良漬や柿の葉寿司や葛餅など特産品もたくさんあります。おまけに鹿の観察にも最適です。時期によっては可愛い子鹿を見ることもできますよ。
本作の刊行にあたり、本当に多くの方々にお世話になりました。執筆とは直接関係のないところでも、いろんな方に支えていただいています。『恋都の狐さん』を読んでふんわりとした癒しを感じていただければ、作者として至上の喜びです。これからも、周囲の方々や読者の皆様がちょっとでも楽しい気持ちになるような作品を書きたいと思います。
まほろばの地から、読者の皆様の幸福を祈っております。
文芸の編集者となって9年余り。多くの新人賞に携わってきましたが、応募原稿で、これほど笑えて、ここまで驚いて、ほろりと涙した作品は初めてのこと。「素顔を知らない人と、生涯忘れえない出逢いをした」というプロローグから惹かれまくりなのでした! 早春の奈良の歴史文化的イベントもてんこ盛りで、「奈良の魅力がいっぱいに詰まった一冊!」(20代・女性)にもなっています。で、なぜ“掟破り?”のメフィスト賞受賞作かというと、第45回受賞作よりも先に刊行されること。そして、もう一つの理由は、ぜひとも読んで確かめていただけたらと思います。