決戦!大坂城

『決戦!大坂城』表紙

慶長二十年五月(一六一五年六月)。秀吉が築きし天下の名城・大坂城――。いまここに、戦国最後の大合戦が始まろうとしていた。乱世に終止符を打つのか、敗北すなわち滅亡か……。七人の作家が参陣、競作シリーズ第2弾!

『決戦!大坂城』
著者:葉室麟/冲方丁/伊東潤/富樫倫太郎/天野純希/乾緑郎/木下昌輝
定価:本体1,600円(税別)

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七人の作家が描く七人の人物たち

葉室 麟×淀殿

「鳳凰記」

亡き豊臣秀吉の側室で秀頼を生んだ茶々。淀と呼ばれ、豊臣家を率いる彼女の前に、徳川家康という強大な敵が立ちふさがる。一族存亡を懸けた”女の戦い”とは。

木下昌輝×真田幸村

「日ノ本一の兵」

この世で一番の武士の頸をとれ! 父の遺言を胸に、真田信繁は打倒徳川家康の秘策を張り巡らす。影武者、そして一挺の銃。家康の眼前に一撃が迫る。

富樫倫太郎×近江屋伊三郎

「十万両を食う」

籠城戦に備える大坂で大儲けをした商人の近江屋伊三郎だが、和睦により大量の古米と借金を抱えることに。こんなはずやなかった……起死回生の一発を狙う。

乾 緑郎×水野勝成

「五霊戦鬼」

戦場で水野勝成が再会したのは、かつて切り捨てたはずの僧だった。鍵を握るのは若き日に授かった謎の秘薬。過去の因縁に向き合う、決戦の日が始まった。

天野純希×松平忠直

「忠直の檻」

祖父徳川家康の下知に抗い、大敗を喫した松平忠直。国に戻り、会いに行ったのは一人の女だった。次の戦が始まろうとするとき、「手柄を立てろ」と女は言う。

冲方 丁×豊臣秀頼

「黄金児」

城外の喧騒とは無縁に少年は育った。やがて頑健な青年となった豊臣秀頼は、敵が徳川家康であることを知る。戦が起きる――22歳の若者が下した決断は。

伊東 潤×福島正守

「男が立たぬ」

激戦の裏で密かに決行された徳川家康の孫・千姫救出作戦。戦渦広がる大阪城内を、福島正則の弟・正守が駆ける。歴史に埋もれた男たちの誇りと約定。

これが大坂「冬の陣」「夏の陣」決戦の瞬間だ!

冬の陣<合戦地図>
夏の陣<合戦地図>

地図作製/ジェイ・マップ+welle design

著者紹介

富樫倫太郎(とがし・りんたろう)

1961年北海道生まれ。1998年『修羅の跫』で歴史群像大賞を受賞し、作家デビュー。「陰陽寮」シリーズなどの伝奇小説、「SRO」シリーズなどの警察小説、 「軍配者」シリーズをはじめとする時代・歴史小説など、幅広いジャンルで活躍。他の著書に『風の如く』『白頭の人』『土方歳三』など。

乾 緑郎(いぬい・ろくろう)

1971年東京都生まれ。2010年『忍び外伝』で朝日時代小説大賞、『完全なる首長竜の日』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、作家デビュー。他の 著書に『賽の巫女 甲州忍び秘伝』『鬼と三日月 山中鹿之介、参る!』『鷹野鍼灸院の事件簿』『機巧のイヴ』『思い出は満たされないまま』など。

葉室 麟(はむろ・りん)

1951年福岡県北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業。地方紙記者などを経て、2005年「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞し、作家デビュー。2007年『銀漢の賦』で松本清張賞、2012年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。他の著書に『影踏み鬼 新撰組篠原泰之進日録』『春雷』『山月庵茶会記』『蒼天見ゆ』など。

冲方 丁(うぶかた・とう)

1977年岐阜県生まれ。早稲田大学在学中の1996年に『黒い季節』でスニーカー大賞金賞を受賞し、作家デビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞、2010年『天地明察』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞、2012年『光圀伝』で山田風太郎賞を受賞。他の著書に『はなとゆめ』など。

伊東 潤(いとう・じゅん)

1960年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業。外資系企業に勤務後、専業作家に。2013年『国を蹴った男』で吉川英治文学新人賞、『義烈千秋 天狗党西へ』で歴史時代作家クラブ賞、『巨鯨の海』で山田風太郎賞、2014年『峠越え』で中山義秀文学賞を受賞。他の著書に『死んでたまるか』など。

天野純希(あまの・すみき)

1979年愛知県生まれ。愛知大学文学部史学科卒業。2007年『桃山ビート・トライブ』で小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。2013年『破天の剣』で中山義秀文学賞を受賞。他の著書に『風吹く谷の守人』『戊辰繚乱』『信長 暁の魔王』『覇道の槍』など。

木下昌輝(きのした・まさき)

1974年奈良県生まれ。近畿大学理工学部建築学科卒業。2012年「宇喜多の捨て嫁」でオール讀物新人賞を受賞する。2014年、受賞短篇を含むデビュー作『宇喜多の捨て嫁』が直木賞候補となり、2015年、同作で高校生直木賞を受賞。

『決戦!大坂城』刊行記念座談会

冲方
一作目のときはけっこう緊張したんですが、その緊張感が作品に反映されて結果的にいいアンソロジーになったと思います。今回もそうなるという確信があったので、わりと肩の力を抜いて書けました。
天野
一作目が売れちゃったプレッシャーというのは少し感じました。でも人のことは気にせず、自分のできることをやろうという開き直りのような気分で臨みました。
僕は声をかけてもらったとき、自分が混ざっていいのかなあ、という思いがありました。皆さん正統派の歴史小説を書かれる中、だいぶチャレンジングな気分で参加させていただきました。
木下
皆さんすごい方たちなので、胸を借りるつもりで書きました。自分の作品が面白くなくても、他の方たちの作品で買ってくれるだろう、と。ただ、絶対に他の人が書けないものを書こうと思いました。
冲方
今日ここにはいない葉室さんや伊東さんも含め、皆さん、一作目のとき以上に趣向を凝らしていますよね。
天野
回を重ねるごとにひねり具合が大きくなっていくんじゃないかと……。
冲方
今回僕が書いた豊臣秀頼は、本当に史料が少ない。そして徳川史観に基づく後世における汚名がすごいんですね。丹念に読み解いていくと、実は欠点が見つからないくらいの堂々たる君主っぷりなんです。
天野
秀頼をここまですごい人にするのか、と思いましたね。
木下
秀頼って大坂の陣では正直活躍していない。何もアクションを起こしていないので書きようがないと思っていました。こんな面白い超人というか、泰然とした神様のような切り口があるのかと驚きました。
大坂城の人々を連れて天に昇っていく、宗教家のようなイメージが浮かんできました。選ばれた人の恍惚みたいなもの。僕は秀頼に対して特にイメージがなかったので、抵抗なく読めました。
冲方
下手すると天草四郎のようになってしまうので、そこを分別して書きました。日本人の中心にいる君主観、誰が何を投影してもいいような存在ですが、明らかに帝っぽく書くと別のカドが立ちそうで、よりパーソナリティを軸に書いたつもりです。
木下
大坂城は、関ヶ原と違って「小早川秀秋が裏切らなかったら」というifがないですよね。だから大局よりも個人の戦いに焦点を合わせざるを得ないと思っていたら、冲方さんや葉室さんは家康の寿命や朝廷との関係、女の外交などを交えて書かれていて、とても勉強になりました。
冲方
茶々(淀殿)と秀頼はいわばセットになるわけですが、葉室さんの茶々の描き方は意外でした。女の色香や感情を出すのではなく、みんな一緒に死にましょう、という「ザ・女武将」という印象。
たしかに意外でした。
冲方
茶々は秀頼よりもさらに一段大局に在りますよね。自ら婚姻を計画したり、そもそも自分の妹(徳川秀忠の正室・江)が徳川家にいるというのもある。
天野
関ヶ原から大坂城で決着がつくまで、なんで十五年も間が空いたのか不思議だったんですが、冲方さんや葉室さんの作品を読んで分かったような気がしました。十五年後にいきなり難癖つけてきたような印象がありますが、実際にはその間ずっとやりあってたんですね。
冲方
関ヶ原から十五年、家康から睨まれ続けながらも生き延びてきたというのはすごい。それは茶々の功績です。
木下
開戦を決めたのは茶々で、茶々のやりようによっては豊臣家は残ったかもしれないというのもありますよね。

――以下、「IN・POCKET」2015年6月号へ

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