かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。 最果タヒ

少女たちは、いつだって青春を戦っている。詩集『死んでしまう系のぼくらに』で世界を震わせた、今、最も注目される詩人・最果タヒが紡ぐ、初めての長編小説――。

『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』表紙

だれと友達になりたいとか、だれはいやだとか。ちょっと気持ち悪い。「友達は選ぶものじゃないです!」私は叫ぶ。だけど、そんな私もうまく考えることができないでいる。友達って、友情って、……なに?
だけど、私はあの子のことがとっても大事だから、私が答えを導きださなければいけない。私がふるおうとしているものが、正義なんかじゃなくて身勝手な暴力だとしても、その可能性を、その責任を、その汚さを、背負うことが力をふるうってことだと思うよ。それでもいいからふるいたい暴力を私はふるう。私は凡人だから、自分と大切なあの子のために力を使うんだ。

どこにでもありそうで、どこにもない、たったひとつの女の子たちの物語。

『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』
著者:最果タヒ
定価:本体1,500円(税別)

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この物語をイメージした詩を、最果さんに書いていただきました

きみがぼくに使うかわいいという言葉が、ぼくを軽蔑していない、その証拠はどこにあるんだろう。好きとも嫌いとも言えないなら、死ねって言っているようなものだと、いつだってきみは、怒っている。ぼくは、きみを好きでも嫌いでもないまま、優しくありたい。かすかな、死の気配でありたい。愛情で語れる友情は、ただの代替品でしかない。きみが孤独なふりをするあいだ、ぼくはきみと友達でいる。光る波がおしよせて、ひいていく。きみの足首がぼくと同じで、ただそこにあることを、だれにも証明ができない。孤独になれば、特別になれると、思い込むぼくらは平凡だ。制服がかろうじてぼくらを意味のあるものにしてくれる。きみは、どんな大人になるかな。あたりさわりのない、この世にいてもいなくても変わりない、誰かになるのかな。幻滅が存在しないのは、友情だけだよ。海が告げる。きみは立っている。ぼくの友達。(詩・最果タヒ)

最果タヒ(さいはて・たひ)

詩人・小説家。
1986年、神戸市生まれ。
2006年、第44回現代詩手帖賞を受賞。2008年、『グッドモーニング』(思潮社)で、当時女性最年少の21歳で、第13回中原中也賞を受賞。2014年に出版した『死んでしまう系のぼくらに』で大きな注目を集める。
『群像』『文藝』『早稲田文学』などにて、小説家としても活躍しており、近著に『星か獣になる季節』(筑摩書房)がある。

担当者コメント

友情ってなんだろう。青春ってなんだろう。
愛だって、孤独だって、特別だって、希望だって、絶望だって、世の中には、言葉自体は存在していても、僕たちには目に見えない、あやふやなものがたくさんあります。
詩人・最果タヒさんは、そんな言葉達に、真っ正面から向かい合い、ぶつかり、それを詩作として発表してきました。その詩が集められた、最新詩集『死んでしまう系のぼくらに』は、読者の熱狂的な支持を集め、大重版を繰り返しています。
そんな彼女が書き上げた、初めての長編小説。それは、言葉で定義しようとすればするほど、逃げていくたくさんの「あいまいなもの」を、一つの物語という名の宝箱に閉じ込めることだったのかもしれません。願わくは、この物語が、多くの読者の宝物になりますように。