おそらく最後の小説を、私は円熟した老作家としてではなく、 フクシマと原発事故のカタストロフィーに追い詰められる 思いで書き続けた。しかし70歳で書いた若い人に希望を語る詩を 新しく引用してしめくくったとも、死んだ友人たちに伝えたい。
作家自身を思わせる主人公・長江古義人(ちょうこう・こぎと)は、 3・11後の動揺の中で、「晩年様式集 イン・レイト・スタイル」と題した 文章を書き始める。未曽有の社会的危機と深まりゆく自らの老い── 切迫する時間の中で、古義人が語り始めるのは……。 「私は生き直すことができない。しかし/私らは生き直すことができる」 最後に引用されるこの謎めいた詩の意味は、読了後明らかになるだろう。
『晩年様式集 イン・レイト・スタイル』 著者:大江健三郎 定価:本体1,800円(税別)