『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』購読者限定 特別番外編ショートストーリー

光のお父さんは室町きりんに叱られた。

それは僕がまだ小学生だった頃の誕生日。

クラスでは、誕生日に友達を家に招いて「お誕生日会」というのを開催するのが流行していた。

友達のお誕生日会招かれると、お小遣いで買った誕生日プレゼントを持参し、その友達の家に集合する。

友達の家に上がるとそこには友達のお母さんが作ったからあげとか、ポテト、ケーキなんかが振舞われる。

それを食べながら、その友達の家族なんかも交えみんなで遊んだりする・・・。

ある年の僕の誕生日、もちろん僕も流行に乗ってクラスでお誕生日会の開催を宣言する。
友達が数人来てくれる事になり、母に頼んで手料理を作ってくれる約束をしたが・・・

何が原因かはわからないが・・・
あろうことか 
お誕生会前日に父と母は大喧嘩・・・・

そしてそのまま頭に血が登った母が家出するという
小学校生活史上最高の危機的状況に陥った。

もう友達がやってくるというのに、料理も何もない・・・友達はプレゼント持ってやってくるというのに・・・!

みんなどんな顔をするんだろう・・・あいつん家のお誕生日会に呼ばれたけど料理が出なかったと噂される・・・!?
ケチな家だぜ!ケッ!って馬鹿にされる・・・・!?

このままでは・・・・僕の楽しい小学生生活が崩壊する・・・

もうだめだ、ここに友達が来る前に・・・・死のう。

もう死んでやろう・・・死ぬしかない・・・。

そんな僕の顔色に気づいたのか・・・
あの父が・・・僕の事については全てに無関心な父が立ち上がり・・・・

・・・・僕にボソリとつぶやいた。

「まかせろ。友達ににうまいもん食わしたる。」

父はまるで、自分がお前を救う勇者なんだぞと言わんばかりに自信満々に僕にそう言った。

ありがとう!お父さん!なんて思うものか・・・
元はといえば・・・あんたがお母さんと喧嘩したからこんなっとるんや!

でも僕はこの時、・・・・父に頼るしかなかったのだ。

光のお父さん計画・・・・。

それは、60歳を越えるゲーム好きの父にFF14をプレイしてもらい、自分は正体を隠してフレンド登録。

共に冒険を続け、いつの日か自分が実の息子である事を打ち明けるという壮大な親孝行計画だった。

そんな「光のお父さん計画」の完遂から・・・もう2年がたとうとしている。

今でも我が家の夕食時の会話はエオルゼアでの話が中心・・・・。

父はあれからもログインを続け、大迷宮バハムートをクリアし・・・

その後はイシュガルドの千年続く竜との戦争を平定し・・・

エオルゼアにあるアパルトメントに自分の部屋を買い家具を並べ・・・

一人前の光の戦士らしい毎日を過ごしている。

その一方でエオルゼアでの生活が変わってしまったのは僕のほうだった。

「光のお父さん計画」完遂後、いろんな訪問者がじょびハウスに訪れ、父との冒険をつづったシリーズ、【光のお父さん】をTVドラマ化する流れになり、忙しい毎日を過ごす事となった。

毎日エオルゼアにログインしているものの、打ち合わせや撮影に終われる毎日・・・

父との冒険は、たまの息抜きでダンジョンに行く程度になってしまっていた。

そしてそんな僕に代わって父とよく遊んでくれているのが・・・

FC:じょびネッツアのメンバー、
るこちー と きりんちゃん である。

るこちーは、じょびの中でも とりわけ面倒見がいいメンバーだ。

いつも父の事を気にかけてくれていて、積極的にダンジョンに誘ってくれたり、いろんなイベントに連れ出してくれたりする。

「マイディーさん、お父さん今週末出張ですよ。」

なんて、僕の知らない父の情報まで僕に教えてくれるほどに仲良くしてくれている。

きりんちゃんは、相変わらず天真爛漫でフリーダムに生きている。

撮影で忙しかったり、リアルで忙しかったりするのに、るこちーと二人で父をダンジョンに誘ってくれたりしている。

父もそんな きりんちゃん の事が大好きで、夕食時によくきりんちゃんの話をしている程だ。

三人は仲良しで、一緒にいろんなコンテンツに挑戦している。

るこちーもきりんちゃんも、父とは友人として付き合ってくれている・・・。

三人の会話がたまに流れてくると、ほんとに仲が良さそうでそれを見ているだけでほっこりとする。

光のお父さん計画が完遂から2年がたち
父にもしっかりエオルゼアの友達ができたのだ・・・。

なんだかそれが嬉しいなと思っていた・・・そんなある日の事だった。

僕がじょびハウスの応接室に篭っていると、突然きりんちゃんが入ってきた。

「まいでぃ~さん、きりんの話を聞いてください。」

いつに無く真剣な雰囲気を醸し出しながら、僕に詰め寄ってきた。

「なに?なんか事件?」

「今、きりんは怒ってるんだよ~」

「ん~??」

これは珍しい・・・いつも毎日を天真爛漫に楽しく生きているきりんちゃんが「怒っている」とな?

一体何に怒っているのか気になるところだ・・・僕は作業の手を止めてきりんちゃんの話を聞いてみる事にした。

「この間、るこちーとインディさんとダンジョンに行ったんだけど~、終わった後、きりん、二人を叱ったんですよ~。」

叱った!?

うわ・・・やばい。うちの父が何か関係してるっぽい。

父が何やらかしたの?

齢60を超えてきりんちゃんに叱られるって・・・なになにどういうこと!?

どういうシチュエーションだったの?w

詳しく聞いてみると、きりんちゃんの話はこうだった。

ある日、きりんちゃんは、るこちーと父に誘われ、「ゼルファトル」というダンジョンに出かけたらしい。

まあそれは光の戦士にとって日課のような冒険だし、特別おかしなことでは無い。

この日も特別変わった様子は無く、順調にダンジョン攻略を進めていたらしい。

そして、きりんちゃんはこの「ゼルファトル」がお気に入りらしいのだ。

その理由は、このダンジョンの道中に「檻」があり、そこで「うり坊」が飼われている。

きりんちゃんは、この「うり坊」が大好きで、るこちーと父と一緒にこのダンジョンにやって来た時は、いつも決まってここで立ち止まり、かわいいかわいいと愛でてから進むらしい。

父もそんなきりんちゃんを孫を見るような目で見ているのだろうか?
想像するとちょっと微笑ましいじゃないか・・・。

しかし・・・
ダンジョンの最後のボスを倒した後・・・・事件が起きたらしい。

なんと、最後のボスを倒したら宝箱から「うり坊」が出てきたらしいのだ。

ここでうり坊を手に入れると、ダンジョンから出た後、うり坊を飼う事ができるというレアアイテム!

そりゃあ、これを手に入れれば「ゼルファトル」に来なくても、
いつでもうり坊を愛でる事ができるわけですから、きりんちゃんは大歓喜!

ところがっ!・・・・FFXIVのお宝は、全員がもらえるわけではない。

貴重なお宝は・・・・「ロット勝負」というシステムで勝利した人しかもらえないのである。

ロット勝負・・・。

宝箱を開けて、お宝が出ると、「ロット勝負のウィンドウ」が画面に現れる。

ここでプレイヤーは「NEED」「GREED」「PASS」の三種類から好きなボタンを押す。

「NEED」は自分が装備できるもので欲しい時。(装備出来ない物が出たときは押せない。)「GREED」は、自分が装備できないけど欲しい時。
「PASS」は、このお宝いらないよ!という時に押す。

「うり坊」装備品ではなく、ペットのようなものなので、誰でも「NEED」が押せる。

複数のプレイヤーで希望が重なったときは、
自動的に「サイコロ」が振られ、一番大きな数字を出した人が宝物をゲットする。

これがロット勝負だ。

というわけで、今回出た「うり坊」が誰の手に渡るのか・・・・

ロット勝負で一番大きな目を出した人がうり坊をお持ち帰りできるっ!!

今、仁義無き戦いが始まる・・・・!!

「ところがですよ~?」

「?」

きりんちゃんの喜びっぷりを目にしたるこちーと父、そしてもう一人のお友達は・・・

うり坊がきりんちゃんに渡るようにと、きりんちゃん以外の全員が、「PASS」を選択!

父たち他のメンバーの優しさにより・・・

きりんちゃんは見事に「うり坊」がゲットできたのだ!

「だから きりんは怒ってるんですよ~」

「え?なんで?めでたしめでたしじゃない」

「だめですよ~、きりんがうり坊欲しがってたから、みんな優しさでPASSしてくれるのはわかるですけど~、きりんを甘やかしすぎですよ~。だから叱ったですよ~」

「なるほど・・・」

「ワガママに思われるのが嫌だったですよ~。」

割と根深い問題だった・・・・。

きりんちゃんは普通にうり坊が好きだから好き!って言ってたんだもんね。

・・・・なのにみんながきりんちゃんの事を思ってPASSした。

それはまるで自分が我侭を言ったみたいに見えるし、父や仲間にそう思われたくなかったんだね。

そんな風に嫌われるのは嫌だったんだね。

なるほど・・・きりんちゃんの気持ちもわかる。

オンラインゲームにはいろんな人が接続し、オンライン上でたくさんの気持ちが交差していく。

例えそれが100%善意で行った行動だとしても、時にはそれが相手にとってうれしくない事だってある。

そういった気持ちのすれ違いもオンラインゲームでは良くある事だ。誰が悪いわけでもない。

僕らは仲間たちとオンライン上に生まれる
そんな「和」の中で、毎日生きている。

光のお父さんがエオルゼアにやってきて随分の時が流れた。

きっと父はエオルゼアにやって来てからずっと・・・

僕の仲間の「和」に入ろうと・・・・

色々自分なりに考えて・・・努力してきてくれたんだろうなと思う。

あの 危機的な状況に陥った お誕生会の日・・・
父は僕と友人たちを近くのレストランに連れて行ってくれた。

普段は僕の友達と話す事なんか全く無かったのに・・・あの状況を自分なりに反省してたのかな・・・。

今思い返すと父は、あの日も今と同じように、僕の友達に話しかけ、「和」に入ろうと努力してくれていたっけ・・・。

そして結果的に父も友達も・・・すごく楽しそうに笑っていたのを思い出す。

主役の僕より楽しそうにしてたっけ・・・w

「まあ、インディさんもきりんちゃんの事が好きだからPASSしてくれたんだよ、喜んでもらおうとしてやった事だから、あんまり怒らないであげてよw」

「怒るの終わりました~♪」

「早いな」

たまにはそんな事もあるだろう。友達なんだから喧嘩をする事もあるだろう。

きりんちゃんが、わざわざそんな話を僕にしてきたという事は、叱ったのはいいけど、インディさんの事がちょっと心配になっちゃったんだね。

わかったわかった・・・ちゃんと僕が説明しておいてあげるからね。

「・・・という事で、きりんちゃんは怒ってたらしいよ」

「ふーん・・・」

僕は、夕食時に父にきりんちゃんの叱った理由を父に伝えた。

父は興味深くその話を聞いていた。

まあなんというか・・・
そうやって想い想われ生きていくのが、オンラインゲームの「和」なんだよ・・・お父さん。

「でもまあ・・・きりんちゃんはかわいいから甘やかしたくなる気持ちもわかるわw」

「・・・・・っていうか」

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・それは黙っとくわ。」

今日もいろんな気持ちがエオルゼアで交差していく・・・。

フレンドリストを開いたら、今日もきりんちゃんとるこちーと父は同じダンジョンに行っている。

これからも、色んな気持ちのすれ違いがあるかもしれないし、喧嘩する事もあるかもしれない。

それでも父がログインするのは、エオルゼアとそこで生きる人達の「和」が好きになってしまったからなんだろう。

おかげさまで、僕はまだ色んな事に忙しくてバタバタしている。

少し落ち着いたら、僕も仲間に入れてもらって、また父やきりんちゃん達とダンジョンに行くのも悪くないなと思った。

光のお父さんは 室町きりんに叱られた。 ・・・・完

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